このページの要点
- 映り込みは『付随して』『軽微な構成部分』『正当な範囲内』の三つで見る(著作権法30条の2)。ゲームや音楽は別の整理が要る。
- 情報は種類ごとに、知る必要のある人と目的、保管の期間を決める。要配慮個人情報は同意なく取得されない(個人情報保護法20条2項)。
- 本人は開示(33条)、利用停止等(35条)を請求できる道がある。契約には返還・消去と事故の通知を入れる。
- 漏れたときは、記録・サービスへの通報・契約上の連絡先の順。発信者情報開示の制度は存在の紹介にとどめる。
結論:守る情報は「画面に出る情報」と「契約と運営で集まる情報」の二層に分ける
配信者が自分の身元を守ろうとするとき、守る対象は二つの層に分かれます。一つ目は、配信の画面や音に出てしまう情報です。部屋の様子、窓の外の景色、生活音、画面に出た通知、来訪者の声などが、本人の想定しない形で視聴者に届きます。二つ目は、所属先、スタッフ、制作者、運営の協力者が、契約や運営の過程で知る情報です。氏名、住所、口座、本人確認書類、家族や健康に関する事情、アカウントのログイン情報などがこれにあたります。
この二つの層は、守り方が異なります。一つ目は配信者本人の運用(配信環境の整え方、確認の習慣)が中心で、法的には他人の権利の写り込みや、視聴者の情報の扱いが問題になります。二つ目は、契約書の条文(誰が、何を、どの目的で、いつまで持つのか)と、個人情報保護法の義務が中心です。どちらも、「誰に何を見せる必要があるのか」を先に決めて、必要のない人には持たせない、という考え方で組み立てます。
- 画面に出る情報:配信前の確認、背景と通知の設定、同居人や来訪者への配慮を、運用として決める。他人の著作物の写り込みは著作権法30条の2の範囲を確かめる。
- 契約と運営で集まる情報:情報の種類ごとに、知る必要のある人と、目的、保管の期間を契約書で決める。個人情報保護法の安全管理(23条)、第三者提供の制限(27条)が基準になる。
- 漏れたとき:本人への連絡、運営サービスへの通報、記録の保存の順序を、事前に決めておく。制度としての発信者情報の開示請求(情プラ法)の存在も知っておく。
所属先との契約の中で、個人情報や守秘の義務がどう書かれているかは所属契約書・業務委託契約書を渡されたときで、活動をやめるときの情報の扱いは活動の休止・卒業・引退・転生の取り決めで、トラブル時の記録の取り方は配信者・VTuberの契約でトラブルになったときで扱っています。このページは、日常の運用と契約の条文の両方から、身元を守る方法を整理します。
配信画面に映るもの:部屋、窓、音、通知、来訪者
配信中に意図せず映る情報は、身元の特定につながりやすいものです。たとえば窓から見える建物や景色、窓ガラスやモニターへの反射、郵便物や宅配の荷物、壁に貼ったカレンダーや書類、近くを通る電車や学校のチャイムの音、画面の隅に出る通知やブラウザのタブ、同居人や来訪者の声などです。一つ一つは小さな情報でも、複数が組み合わさると、居住地域や勤務先、生活のリズムが推測されます。
配信を始める前に確かめること(運用のチェック)
- 窓、ガラス、モニターの反射に、景色や自分の姿が映らない配置になっているか。
- 背景の壁や棚に、住所、氏名、勤務先、学校名の分かるもの(書類、郵便物、制服)が映っていないか。
- デスクトップの通知、ブラウザのタブ、ファイル名、ブックマークが画面に出ない設定になっているか。
- 生活音(チャイム、近所の放送、電車の音)や、同居人・来訪者の声が入らない環境か。入る可能性があるときの対処を決めてあるか。
- 配信の時間帯や話題が、居住地域や生活の予定を推測させないか。
- 他人の撮影物、写真、作品が、画面の目立つ位置に長く映っていないか。
他人の著作物が画面に映り込む場面では、著作権法30条の2が関わります。同条は、写真の撮影、録音、録画、放送その他これらと同様に事物の影像または音を複製し、または複製を伴うことなく伝達する行為を行うに当たって、その対象とする事物または音に付随して対象となる事物または音に係る著作物(作成された物や伝達されるもののうち、その著作物の占める割合や再製の精度などに照らして軽微な構成部分となるものに限る)は、その利用により利益を得る目的の有無、分離の困難性の程度、作成伝達物で果たす役割などに照らして正当な範囲内において、複製伝達行為に伴って利用できるとしています。ただし、著作物の種類や用途、利用の態様に照らして著作権者の利益を不当に害することとなる場合は除かれます。
ここから読み取れるのは、「付随して」「軽微な構成部分」「正当な範囲内」という三つの条件です。部屋の壁に貼ったポスターが画面の端にわずかに映る程度なら、この条の範囲に収まる可能性があります。反対に、ポスターや作品を配信の主役のように大きく映し、長く映す場合は、「付随」「軽微」とは言いにくくなります。ゲームの画面や音楽は、配信の対象そのものであって、付随して映り込むものではないため、30条の2では整理できません。ゲームや音楽の権利処理は、ゲーム実況・BGM・他者の作品を配信するときの権利処理で別に扱っています。
同居人や来訪者の声が入ることは、その人の個人情報(声で個人が特定できる場合)や、プライバシーの問題でもあります。配信中に家族や友人が映りうる環境なら、事前に同意を得る、その人の発言が入ったら配信を止める、といった運用を決めておくのが、本人にとっても同居人にとっても安全です。
コメント・視聴者の情報の扱い
守る対象は、配信者自身の情報だけではありません。コメント、投げ銭のメッセージ、ダイレクトメッセージ、プレゼントの送付先、参加企画の応募情報など、視聴者の情報も配信者が扱います。
個人情報保護法2条1項1号は、個人情報を、氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む)と定めています。ハンドル名だけでは誰か分からなくても、他の情報(SNSの投稿、配信での発言、送付先の氏名)と容易に照合できるなら、個人情報にあたります。視聴者のコメントを読み上げる、スクリーンショットを動画や告知に使う、といった場面でも、投稿者が特定される形で使うなら、慎重に扱う必要があります。
視聴者の情報を扱う場面と、考え方
コメントの読み上げ・画面での紹介
ハンドル名とセットで公開される
- 個人を特定されたくない内容(住所、勤務先、年齢が分かる内容)を含むコメントは読み上げない。
- 特定の視聴者を揶揄する内容は避ける。
- 切り抜きや告知に使うときは、投稿者名を伏せる選択肢も持つ。
プレゼントの送付先・連絡先
住所や氏名を取得する
- 取得する前に、利用目的(発送のみ)を示す(個人情報保護法21条2項)。
- 発送の完了後は削除し、保管の期間を決める。
- 送付先の情報は、所属先や制作者に共有しない(共有するなら同意を得る)。
ダイレクトメッセージ・相談
個人の事情を打ち明けられる
- 個人的な事情を打ち明けられても、第三者に流さない。
- 要配慮個人情報(病歴など)にあたる内容は、取得に本人の同意が必要(20条2項)。
- 相談に応じられる範囲を、プロフィール等で示しておく。
共演者がいるコラボ配信では、相手の情報の扱いも決めておく必要があります。相手の本名、住所、勤務先、年齢、過去の活動名などが話題に出ると、相手の身元の特定につながります。コラボの前に、話してよいこと、話さないこと、アーカイブや切り抜きにしてよい範囲、後から削除を求められたときの対応を、短い取り決めとして確認しておくと、お互いに安心して配信できます。取り決めは、メッセージの形でもよいので、記録に残る形にします。
また、視聴者から寄せられた相談や悩みを、配信で取り上げる場面もあります。投稿者が特定されない形にしたつもりでも、細部(地名、職業、家族構成、出来事の日付)の組み合わせで、本人や周囲の人には誰のことか分かってしまう場合があります。取り上げる前に、個人を特定できる要素を外すか、本人の同意を得るかを考えます。健康に関する相談など、要配慮個人情報にあたりうる内容は、取り上げ方に特に注意が必要です。
所属先・スタッフ・制作者が知る情報の範囲を、種類ごとに決める
契約を結ぶと、所属先やスタッフ、制作者、運営の協力者は、配信者の個人情報を知ることになります。情報を渡す側(配信者)から見ると、情報の種類ごとに「誰が、何のために知る必要があるか」を整理しておくことが、守りの出発点です。
情報の種類と、持ち方の考え方
| 情報の種類 | 知る必要のある人 | 持ち方の注意 | 契約書で確かめること |
|---|---|---|---|
| 氏名・住所・連絡先 | 契約と支払の手続を担当する窓口。必要最小限の人 | 配信の運営スタッフ全員には共有しない。活動名との対応を知る人を絞る | 利用目的、第三者への提供の禁止、委託先に同等の義務を課すかどうか |
| 口座・支払情報 | 経理の担当者 | 支払の目的以外に使わない。支払が終わった後の保管期間を決める | 保管の期間、支払の関係書類の扱い |
| 本人確認書類のコピー | 本人確認を担当する人 | 確認が済んだら、コピーを保管し続ける必要があるかを見直す。保管するなら厳格に管理する | 返却・消去の時期、取得の目的 |
| 家族・健康に関する事情 | 活動の調整に必要な最小限の人 | 要配慮個人情報にあたる場合がある(20条2項)。本人の同意なく取得・共有しない | 取得の同意の範囲、共有の相手 |
| アカウントの認証情報 | 運用を担当する人。権限は最小限に | 認証情報を共有する場合は、期限と記録を決める。可能なら権限付与の機能を使い、パスワードを渡さない | 権限の範囲、期限、退所時の返却と変更 |
| 配信環境の情報(部屋、機材、生活の予定) | 必要がなければ誰にも渡さない | 撮影の手伝いなどで知る人が出る場合は、その人の守秘を確認する | 守秘義務の対象と期間 |
この表のうち、特に注意したいのは、本人確認書類とアカウントの認証情報です。前者は、確認が済んだ後も保管され続けることが多く、漏えいしたときの影響が大きい情報です。後者は、持つ人が増えるほど、事故の可能性が高まります。契約の条文として、保管の期間と、契約終了時の返却・消去を明確にしておくことが、退所後の安心につながります。
個人情報保護法の義務と、本人が使える道
所属先、スタッフ、運営の協力者が、配信者の個人情報を整理して持っている場合、その者は個人情報保護法の「個人情報取扱事業者」(16条2項)にあたる可能性があります。ここでは、配信者本人の立場から、確認できる義務と使える道を整理します。
署名の前の問いと理由個人情報保護法の義務と、本人が確かめる問い
利用目的は特定され、その範囲で使われているか。
個人情報取扱事業者は、利用目的をできる限り特定し(17条)、あらかじめ本人の同意を得ないで、その目的の達成に必要な範囲を超えて取り扱ってはならない(18条)とされています。
情報を取得するとき、利用目的を明示されたか。
契約書などの書面で本人から直接情報を取得する場合、あらかじめ利用目的を明示する必要があります(21条2項)。契約書に利用目的の条項があるか確かめます。
安全管理と、スタッフの監督はどうなっているか。
個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置(23条)、従業者への監督(24条)、委託先への監督(25条)が求められます。契約書では、誰に何を取り扱わせるか、委託先に同等の義務を課すかが読みどころです。
事故が起きたときの報告と通知の取り決めはあるか。
一定の重大な事態が生じたときは、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が求められます(26条)。契約書にも、事故の際に本人へ速やかに知らせる定めがあるかを確かめます。
第三者へ提供されるとき、同意を求められるか。
個人データは、例外を除き、あらかじめ本人の同意を得ないで第三者に提供してはならないとされます(27条)。広告主や制作者への情報共有が、同意の範囲にあるかを確かめます。
自分の情報の開示や、利用停止・消去を求められるか。
本人は、保有個人データの開示を請求できます(33条)。また、違反して取り扱われている場合の利用停止等(35条1項)、利用する必要がなくなった場合などの利用停止等(35条5項)を請求できます。
これは法律上の枠の整理で、実際に請求できるかは、情報の種類、相手方が個人情報取扱事業者にあたるか、などによって変わります。
契約の終了後、情報がどうなるかは、特に重要です。契約書に、終了時に個人情報を返還または消去する定めがあれば、その定めに基づいて求められます。定めがなくても、利用する必要がなくなった保有個人データについては、利用停止等を請求できる道があります(35条5項)。ただし、会計の記録などで保管が必要な情報は、保管が続くことがあります。何が消され、何が残るのかを、終了の前に確認しておくのが現実的です。
スタッフ・モデレーターに与える権限と、退所時の整理
チャンネルの管理者、モデレーター、編集者、サムネイルの制作者など、配信に関わる人が増えるほど、アカウントの権限や情報を渡す場面が増えます。権限と情報は、「必要な人に、必要な範囲で、必要な間だけ」渡すのが原則です。
権限を渡し、返してもらう流れ
条文の例個人情報の取扱いに関する条項の書き方
- 乙(受託者・スタッフ)は、甲(配信者)の個人情報を、本契約の目的の範囲内でのみ利用し、甲の同意なく第三者に提供しない。
- 乙は、前項の個人情報について、漏えい、滅失または毀損の防止のために必要かつ適切な措置を講じ、これを取り扱う従業者に対して必要かつ適切な監督を行う。取扱いを第三者に委託する場合は、事前に甲に通知し、乙と同等の義務を課す。
- 個人情報の漏えいその他の事故が生じ、または生じるおそれがあるときは、乙は、直ちにその旨を甲に通知し、被害の拡大を防ぐために必要な措置を講じる。
- 本契約が終了したとき、または甲から求められたときは、乙は、保有する甲の個人情報を速やかに返還または消去し、その旨を書面(電磁的方法を含む)で甲に報告する。本条の義務は、契約の終了後も存続する。
契約終了後の返還・消去と、その報告を条文に入れておくと、活動をやめた後の情報の行方を確かめる手がかりになります。
業務用に作ったアカウントと、個人で持っているアカウントを分けて考えることも重要です。業務用アカウントは、契約の終了時に誰に帰属し、誰が管理を続けるのかを決める必要があります。この点は活動の休止・卒業・引退・転生の取り決めで、名前・モデル・アカウントの帰属別に整理しています。
情報が漏れたとき:連絡の順序と、制度の存在
身元の情報が漏れたとき、動揺の中で順序を誤ると、拡散を止めにくくなります。一般的な順序は、(1)記録を残す、(2)運営サービスへ通報する、(3)契約上の連絡先に知らせる、の順です。
情報が漏れたときの連絡の順序
権利侵害の情報が流通した場合の制度として、「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」があります。同法3条は、権利を侵害する情報の流通について、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任を一定の場合に限る形で制限しています。同法5条は、情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者が、役務提供者に対して発信者情報の開示を請求できる場合を定め、8条は、裁判所が発信者情報の開示を命ずることができる旨を定めています。このページでは、制度が存在することの紹介にとどめ、請求の手続には触れません。
刑事上の問題として、刑法230条は、公然と事実を摘示して人の名誉を毀損した者を、その事実の有無にかかわらず、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に処すると定めています。同法231条は、事実を摘示しなくても公然と人を侮辱した者を、1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料に処すると定めます。233条は虚偽の風説の流布や偽計による信用毀損・業務妨害を、234条は威力を用いた業務妨害を、233条の例により罰すると定めています。これらは、情報の拡散に伴う嫌がらせが問題になる場面で、どのような行為が法的に問題とされうるかを知る手がかりになります。
所属先やスタッフの側で漏えいが起きたときは、事業者側に報告・通知の義務(個人情報保護法26条)があります。契約書に、事故の通知先と通知の期限が書かれているかを、あらかじめ確かめておくと、いざというときに動きやすくなります。
起きがちなこと
身元と個人情報で起きがちなこと
- 配信中の窓の反射や、郵便物、通知の表示から、居住地域が推測された。
- 同居人の声が配信に入り、その人から削除を求められた。
- 視聴者のコメントをそのまま動画の告知に使い、投稿者から外してほしいと言われた。
- 本人確認書類のコピーが、確認の済んだ後も長期間、複数の担当者の手元に残っていた。
- アカウントの認証情報を口頭やメッセージで共有し、担当が代わった後も変更されなかった。
- 契約を終えた後も、個人情報が返還・消去されたかどうか、確認する手立てがなかった。
よくあるご質問
配信の背景に、ポスターや他人の作品が映り込むのは問題ですか。
著作権法30条の2は、対象とする事物に付随して軽微な構成部分として映る著作物を、正当な範囲内で利用できるとしています。ポスターが画面の端にわずかに映る程度なら範囲に収まる可能性がありますが、大きく長く映す場合は難しくなります。ゲームや音楽は配信の対象そのものであり、この条では整理できません。
視聴者のハンドル名は、個人情報になりますか。
ハンドル名だけで誰か分からなくても、他の情報と容易に照合して特定の個人を識別できるなら、個人情報にあたります(個人情報保護法2条1項1号)。コメントの読み上げや画面での紹介では、投稿者が特定される使い方かどうかを考えて扱います。
所属先やスタッフに、どこまで個人情報を渡す必要がありますか。
契約と支払の手続に必要な最小限です。情報の種類ごとに、知る必要のある人と目的を整理し、契約書で利用目的、第三者への提供の禁止、委託先への監督、終了時の返還・消去を決めます。本人確認書類は、確認の済んだ後の保管の必要性を見直します。
活動をやめた後、所属先が持っている自分の情報の消去を求められますか。
契約書に終了時の返還・消去の定めがあれば、それに基づいて求められます。定めがない場合も、利用する必要がなくなった保有個人データは、個人情報保護法35条5項により、利用停止等を請求できる道があります。会計の記録などで保管が必要な情報は、残ることがあります。
身元の情報が拡散されたとき、最初に何をすべきですか。
投稿のURLや日時などの記録を、削除される前に残します。次に、運営サービスの通報機能で削除を求め、契約で連絡先を決めた相手に知らせます。発信者情報の開示請求という制度も存在しますが、手続の詳細はこのページでは扱いません。
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